本当に優しい人と、優しいと思われたい人

昔の話ですが。
職場にて、私より10歳位年上の女性に、私はやたらと腹を立てていた時期がありました。

その理由はズバリ「働かないから」です。

私の職場は、けっこう体を使う仕事で、健康で体力がないと長く勤めるのは難しいと思います。
当時50歳位だったその女性、岸田さん(仮名)は、チームリーダーでした。
率先して働かないといけない立場なはずが、体がしんどいと言いながら、事務的な仕事を選んで、ハードな事は他の人に回していました。 
しかも事務といっても特別やることはなくて、基本、暇です。

はたから見ると、椅子に座ってネットサーフィンをしているだけに見えます。
私達は、仕事をしないリーダーの陰口を言っていました。

 

岸田さんからよく聞く言葉は、

膝が痛い
腰が痛い
疲れた
更年期でしんどい
この仕事は向いていない…

など。

 

私はそういう言葉を聞くたびに、腹が立ちました。

誰よりも高いお給料をもらいながら、誰よりも楽をしているなんて…!許せん!
挙句の果てにはこの仕事が向いていないだって?!
だったら、さっさと辞めればいいのに!と。

しんどそうな様子を見ても、私は、気の毒だと思いませんでした。むしろ、冷めた目で見ていました。けど表面上は、「大丈夫ですか?」「無理しないでくださいね」なんて言いながら。

 

結局、岸田さんは、それからしばらくして家庭の事情で退職しました。
やれやれ、これで目障りな人がいなくなったぞ、と思いました。

 

…最近になって思い出すんです。岸田さんのことを。

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私も更年期に突入し…

「ああ、腰が痛いわあ~」と、よっこらしょ、と起きる日が増えました。体が重いとか怠いと感じる日が昔より多くなった気がします。
仕事で体力を消耗し「あーしんど~!もう無理…!」とくたびれ果てている自分がいます。
パソコンやスマホ画面に焦点が合いにくくなって「おお、これが老眼かね…」とショックを受けるようになりました。

「更年期」という文字が脳裏をかすめます。

岸田さんは、今の私よりも更に年上だったんだもんね。こりゃあ、大変だったろうなあ…って、思うようになりました。

自分が経験するようになってやっと、岸田さんのしんどさが分かるようになってきました。
この仕事が向いていないとしても、体がついていかないとしても、じゃあ辞めて他の職場に…なんてそう簡単にふんぎりはつかないものだし。
この年齢で転職なんて…と思うだろうし。


皆と同じように働きたい、けど、体がしんどくて無理…な状況。思うように動かない自分の身体。
情けなくなることも、悲しくなることも、あったかもしれない。
後輩への申し訳なさもあったかもしれない。

家庭の事情で…と退職したのは表向きの理由で、もしかしたら、高給もらっているのに、満足に働けない状態に申し訳なさを感じていたのかもしれない。自分を責めて苦しかったかもしれない。
周りの冷たい視線に居心地の悪さを感じたかもしれない。

 

あの時は、相手の気持ちを慮ることが出来ない、想像力皆無で自分勝手な私でしたが、
自分がそれを経験するようになってようやく、「大変だったんだなあ。」と本心から思えるようになりました。

本当に優しい人って

私は、優しい人だと思われたい、という理想の自分像がありました。
よく見られたいという気持ちが強くて、素敵な自分を偽ろうとしていました。
岸田さんに内心腹を立てながら、裏腹に、優しい(と自分で思っている)言葉をかけました。

でも、本当に優しい人って、そんな風に、自分がどう見られるか?なんてことは気にしていなくて、よく見られたいがために優しいふりをするんじゃなくて、
相手の気持ちを想像して、相手の気持ちに寄り添うことができる人なんだろうな。

そしてそれが出来る人はきっと、それだけ、苦労をしてきたんだろうな。
自分が苦労しているから、他人の苦労も分かるんだろうな。

苦労は買ってでもしろ、っていうことわざ?を思い出しました。
そうだよねえ、自分が体験しないと分からないこと、たーくさんあるよねえ。

しんどいのも苦しいのも、辛くて嫌だし、逃げたくなるし、そんな時に人の事までなかなか考える余裕なんてないけど、でも、
この辛さや苦しさが、他人を思いやる優しさとか思いやりになっていくんだなって、いつか誰かが、それで気持ちが楽になる事もあるんだって、
ほんの少しでも、そんな風に思って、乗り越える原動力にできたらいいなあ、と思います。

そして、自分が経験していないこと、分からないことであったとしても、
岸田さんに対して冷めた目でみていた自分を反省した今、「その人にとっては、とても辛いんだなあ。しんどいんだなあ…。」と、想像力を働かせて、相手を思いやる心を忘れないようにしたいです。

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