ずっと、一人で、自分の世界に閉じこもっていたから。
誰もいない、まっくらな世界は、不安だらけ。怖くて、寒い。
一人ぼっちはとても孤独だけど、でも、それが私にとっての、当たり前。
暗闇の世界が、自分の住まい。
暗くて、当たり前。
寒くて、当たり前。
そうして何十年と生きてきたから、
昼間の…明るい世界にちょっと足を踏み入れると、気が引けるし、怖気づいてしまう。
私、そっちに行っても良いの?!って。
昼間の世界は、明るくて、あたたかくて、楽しそう。
ずっと、そっちに行きたくて、ずっと憧れていて、
でも自分には似合わない、と背を向けていた世界。
実は、そちらに、行ける。
行っても良い。
こっちにおいでよ―!って呼んでくれている人がいる。
でも、怖くって。
やっぱり、あれは、まぶしすぎる。
私にいる世界じゃない…私なんか… と動きたくなくなる。
昼間の世界はこそばゆい
近頃…。
職場で、あるいはご近所さんに、明るい声であいさつをしている私に、自分でちょっと驚くことがある。
あれ…私、こんなに明るい声が出るんだ?!ってびっくりして、なんだか恥ずかしくなって。
みつきさん、どうしたの?!って、相手が怪訝におもうんじゃないかなって。
みつきさん、何、浮かれちゃってんの!?って、思われるんじゃないかなって。
そうして、居心地が悪くなって、「こんなの私じゃない…!」って、暗闇の世界へ後ずさりして、戻ろうとする自分が出てくる。
居心地が悪いっていうか、慣れないっていうか…。
そう、これ、アウェイ感だなあ。
スーパーにて。
レジに並ぶのが、ほぼ同時になってしまった、おじいさんとの会話。
お互いに「先、どうぞ」「いえいえ、お先にどうぞ。」
「良いんです、私、急いでいませんから。」
「いいよいいよ。先にお入りなさい。」
「そんな~良いんですよ、お先にどうぞ。」
「いいのいいの。レデーファーストじゃから。オフォフォ」
「そうですか、では、お先に。ありがとうございます~!フフフ。」
「フォフォフォ」
なんていうやり取りを、おじいさんは大きな声でする。
私は笑顔で話をしている。
他のレジにならぶ人たちの目がちょっと気になりつつも、なんだかとっても心があたたかくなって、嬉しくなって。世知辛い世の中で、ほっこりした瞬間。
だけど、ちょっと、恥ずかしくって。
あたたかい、昼間の世界は、ちょっとまだ、こそばゆいなあ…って感じがする。
慣れるまで 少しずつ 少しずつ
真夜中にぱっと電気がついたら、まぶしくって、ちゃんと目を開けていられない。
しばらくすれば慣れるけど、それまでは「まぶしー!!やめてー!電気、消してよー!!」って思う。
慣れるまでの間が。
快か不快か、で言ったら、 だいぶ、不快。
だから、明るい世界は、私の居場所じゃない気がしちゃう。
こんなところ、いやだ!
そっぽ向いて、興味ないフリして、ツンとして、賢いフリして、充実しているフリをして。
見栄っ張りな私でいられる世界が、私の居場所だって。
ずっとずっと求めていたのに。
暗闇の方が慣れているから。私なんて、どうせ、嫌われているから。
私なんて、つまらない人間だから。
私なんて。
私なんて。
ばかばかしい。くだらない。興味ない。
そう言い聞かせながら、暗闇に引っ込もうとする時がある。
そして、実際に、引っ込む。
でもね。
やっぱりそこもなんだか、違和感がある。
違うなあって思う。
ずっとここに居たい、とは思わない場所。
もう、ここは私の居場所じゃない、と自分で本当は知っている。
だから、少し居たら「あ、やっぱり、もう、いいや。」って思う。
そうやって、少しずつ、アウェイだった昼間がホームになっていくんだろうな。
だんだん分かってきたよ。
それ、ただ、「慣れていない」ってことなんだって。
明るい自分の声に、耳が慣れていないだけで。
知らない人との、その場の、何気ない会話が。
嬉しいってことに、気持ちが慣れていないだけ。
暗闇にいたら、ぱっと電気が点いたから。
まぶしさにびっくりしてるだけ。
だから、そんな、びくびくしないで良いんだって。
しばらくすれば、目が慣れて、いろんなことが、よく見えるようになってくるから。
暗闇よりも、呼吸がしやすくて、視界が広くて、安心感があって、良いなアって思うようになってくるから。
どんなことだって、最初からはうまくいかない。 何回も経験して、少しずつ、出来るようになっていく。仕事も、勉強も、運動も、家事も、なんでも…!
自分の居場所だって、同じ。
引っ越したばかりは、いくら良い家でも、環境でも、慣れるまではやっぱり緊張するし、時間がかかるよ。そういうもんだね。
そして何より。暗闇の世界も、昼間の世界も、どちらも経験したのなら。
どちらの世界も知っている人なのだから。
暗闇の寂しさを、寒さを知っているから、そこにいる人の気持ちが分かり。 まぶしい世界に居心地の悪さを感じることを知っているから、後ろに下がろうとする人の気持ちが分かる。
そんなことが、人への思いやりとか、優しさになるんだって、思う。
だから、暗闇の世界も必要で、そこがあるから、違いがわかって。
後になれば、あれはあれで良かったんだって、昼間の世界に慣れた頃に、いつか、思えるのだと思う。
そういうわけで、私は、この記事を読んでくださっている、暗闇で一人、うずくまっている方と一緒に、あれ?私の声が前より明るいよ?! って驚いて、恥ずかしくなって、もぞもぞして。
びくびく、おどおどしながら…昼間の世界に慣れていきたいと思っているのです。